ありふれた溢れ出る感想ブログ

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映画『悪人』彼が彼女の首を絞めたのは精一杯の思いやり

 

 

 

 

2010年の今日(9月11日)、

14年前に公開された 映画『悪人』を久々視聴

 

【ざっくりあらすじ】

山中で20代女性 石橋佳乃〈満島ひかり〉の滑落遺体が発見される

死の直前まで 佳乃と共に過ごしていた 増尾圭吾〈岡田将生〉が容疑者としてマークされるも

真犯人は別にいることが判明する

佳乃と出会い系サイトで知り合っていた 清水祐一〈妻夫木聡〉が警察に追われる身となり、

同サイトでやりとりをしていた 馬込光代〈深津絵里〉を巻き込んで逃亡することに___

 

 

前回いつ観たのか覚えていないけれど

断片的にはいくつかのシーンを覚えていて

なんだか無性に観たくなったので観たら

改めてゴリッと胸の奥を抉られる作品だった

 

 

母親〈余貴美子〉の育児放棄により

祖母〈樹木希林〉の手で育てられた 祐一〈妻夫木聡

祖父母の世話、仕事、家を行き来するだけの毎日の中で、

出会い系サイトで知り合った 佳乃〈満島ひかり〉との約束の日

佳乃の意中の男 圭吾〈岡田将生〉が現れたことにより

目の前でドタキャンされる

この地点から各主要人物の人生がハードモードへと切り替わる様が胸に迫る

 

そして生い立ちにより人が信じられず

異性との距離感が掴めない 祐一と、

真面目に淡々と仕事や生活を営んで

異性と深く触れ合ってこなかった 光代が出会い

かき消すことのできない事実を共有し

深い快楽と愛情を分け与えながら逃亡する二人の

短くも濃ゆい恋愛模様も心に突き刺さる...

 

 

この物語は20代の若者たちと親世代、

両者の葛藤・未熟さ・迷いなどが

いくつも散りばめられていると感じるので

観る側の年齢によって変化していく映画のように思っている

 

今ちょうど 祐一〈妻夫木聡〉と同い年で

光代〈深津絵里〉のように異性と深い関わりを持ったことがなく日々を淡々と消化していて

劇中で出てくるセリフ "生きてるのか死んでるのか分からない"冴えない人生なので

共感というのか、妙に同じカテゴリーのように錯覚してしまう部分もあった

 

一方 異性関係が派手で

若さゆえに?元々の性格ゆえに?

相手にナイフのような言葉を浴びせて煽ってノリだけで生きていた 佳乃〈満島ひかり〉と圭吾〈岡田将生

こういうタイプの人間いるよなとリアリティがあった

そんなこと言わないほうがいいのに、

いくら苛つくからって蹴飛ばすなんて...

個人的にはこの二人が一番悪人だと思った

でもだからって命が奪われて良い訳ではないけれど

 

親世代の目線では

突然娘を失って途方に暮れる父親〈柄本明〉と母親〈宮崎美子〉、

特に父親の徐々に増していく怒りと悲しみが印象的

夫婦で慰め合う姿を見せず、

泣く母親を鬱陶しく叱責する父親が昭和の夫婦って感じだった

でもそんな父親も静かに唇を噛み締めながら泣いているという...

 

事件現場で娘に語りかけるシーンと

娘を雑に扱った男に対して放った言葉が忘れられない

 

 

また手塩にかけて育てた息子も同然のような孫が

ある日突然殺人者として扱われ

マスコミに追いかけ回される祖母〈樹木希林〉の老いた背中が切なくてたまらなかった

娘は育児放棄をするような人間、孫は殺人犯...

でも祖母は果たして悪いのだろうか?

育て方が悪かったのだろうか...?

バスの運転手の言葉に同意だった

あのスカーフ、孫への愛情と決意を感じた

 

 

そして 祐一が光代の首を絞めるシーン、

あれは祐一の精一杯の思いやりではないかと今回観ていて思った

 

自分の人生に巻き込んでしまったこと

初めて深い愛情を示してくれた 光代をこれ以上傷つける訳にはいかない

そんな気持ちで警察の目の前で思いっきり首を絞めることで

全面的に自分が悪いんだと、悪人なんだと認めた上での行動なのではないかと

 

他責思考だったことを 祐一自らが口にしていたから

光代と出会えたことで 祐一は人間的な成長をしたと受け取った

 

なにより首を絞めてる途中でキスをしたこと

それはごめん、ありがとう、愛してるを濃縮した行動に感じた

 

 

【キャスト、印象的なシーン】

主要キャストから脇の脇まで、

見事に好きな役者しか揃っていない映画でもある

 

久々視聴だからあまり細かいこと覚えていなかったけど、

岡田将生さん演じるクソ男が

満島ひかりさん演じる まあ調子乗りな女を豪快に蹴飛ばしててビックリした

そんな衝撃的なシーンだったら覚えててもいいはずなのに忘れてたから初見も同然にリアクションしてしまった

警察に捕まえられて「お母さ〜ん」って暴れるだっさいクソ男を見事に体現されてて思わず笑ってしまったり

 

それとその調子乗りな女が

妻夫木聡さん演じる 心に影を抱えた男を侮辱して挑発して怒らせ腕を握られるシーン、

満島さんのまるで動物が罠にかかった時のような甲高い叫び声が迫力満点で印象的

やっぱ『愛のむきだし』から満島さんを認識した分、ボロッボロになった時の怒りで掠れた声がめちゃくちゃ好きなんだよなぁ

一方で事件現場に父親が訪れて

幻想として現れた時のぎこちない笑顔と後悔してるような寂しそうな表情が切なすぎて切なすぎて...

静と動、どちらも魅せてくれるからマジビッグファン🫶

 

光石研さん演じる大叔父の無関心さも良いスパイスだったなぁ

祐一を哀れむんだったら一緒にどこか連れ出すとかしてあげればよかったのにって

最初は冷たい感じだったけど、祖母が祐一が買ってくれたスカーフを大事に愛でているシーンの表情で少し気遣う感情を読み取った

 

松尾スズキさん演じる田舎の老人相手にインチキ商売してる893?の胡散臭さも良きだった

てかもうご年輩の方が詐欺られて

詰められてる姿を観るのは胸が痛かった

樹木希林さんが亡き祖母に似ているせいか、

ほんとこういう構図フィクションでも許せない気持ちにさせられた

 

 

激しく悲劇的ではあるものの、

それと同じくらい深い愛情も感じる作風なので

また観たいと思えるお気に入りの1本🎞️👏